はじめに
日本国内に住むすべての人や世帯の実態を把握する「国勢調査」。10年に一度行われるこの調査は、人口・世帯構造・居住実態といった基本統計を得る基盤です。
本記事では、国勢調査の意義・沿革・法的根拠・回答方法・罰則規定など、国勢調査を理解するうえで押さえておきたい基礎知識を整理して解説します。統計の根拠や義務性について知りたい方に向けた内容です。
沿革
第1回調査は1920年に行われました。
2025年(令和7年)調査は第22回になります。
内容
国勢調査は、日本に住んでいる全ての人・世帯を対象に実施する統計調査です。
法律上の根拠
国勢調査は、統計法に基づき行われます。
統計法5条
まずは、統計法5条を見てみましょう。
(国勢統計)
第五条 総務大臣は、本邦に居住している者として政令で定める者について、人及び世帯に関する全数調査を行い、これに基づく統計(以下この条において「国勢統計」という。)を作成しなければならない。
2 総務大臣は、前項に規定する全数調査(以下「国勢調査」という。)を十年ごとに行い、国勢統計を作成しなければならない。ただし、当該国勢調査を行った年から五年目に当たる年には簡易な方法による国勢調査を行い、国勢統計を作成するものとする。
3 総務大臣は、前項に定めるもののほか、必要があると認めるときは、臨時の国勢調査を行い、国勢統計を作成することができる。
5条1項によると、国勢調査は総務省が行なっています。国勢調査を行い、国勢統計を作成するのが目的です。
5条2項によると、国勢調査は10年ごとに行われます。また、その中間の5年目には簡易な国勢調査が行われます。
5条3項によると、臨時の国勢調査が可能です。戦後の1947年に1度だけ行われたことがあります。
回答方法
インターネットか書類で回答することになります。
統計調査員
統計法14条及び15条は、統計調査員について定めています。
(統計調査員)
第十四条 行政機関の長は、その行う基幹統計調査の実施のため必要があるときは、統計調査員を置くことができる。
(立入検査等)
第十五条 行政機関の長は、その行う基幹統計調査の正確な報告を求めるため必要があると認めるときは、当該基幹統計調査の報告を求められた個人又は法人その他の団体に対し、その報告に関し資料の提出を求め、又はその統計調査員その他の職員に、必要な場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により立入検査をする統計調査員その他の職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
統計調査員は、「基幹統計調査の正確な報告を求めるため」に存在します。
統計調査員は、資料の提出を求め、必要な場所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査し、関係者に質問することができます。ただし、犯罪捜査のために認められた権限ではありません。
統計調査員は、身分を示す証明書を携帯しなければなりません。提示を求められた場合、提示する義務があります。
罰則
誤認させる調査の禁止
統計法17条は誤認させる調査の禁止について定めています。
(基幹統計調査と誤認させる調査の禁止)
第十七条 何人も、国勢調査その他の基幹統計調査の報告の求めであると人を誤認させるような表示又は説明をすることにより、当該求めに対する報告として、個人又は法人その他の団体の情報を取得してはならない。
これは、国勢調査を装って訪問し個人情報を入手する行為等を禁止する規定です。
罰則は、2年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金です(統計法57条1号)。
未遂も処罰されます(57条2項)。
情報を取り扱う業務を行う者の守秘義務
統計法41条は守秘義務について定めています。
(守秘義務)
第四十一条 次の各号に掲げる者は、当該各号に定める業務に関して知り得た個人又は法人その他の団体の秘密を漏らしてはならない。
一 第三十九条第一項第一号に定める情報の取扱いに従事する行政機関の職員又は職員であった者 当該情報を取り扱う業務
二 第三十九条第一項第二号又は第三号に定める情報の取扱いに従事する地方公共団体の職員又は職員であった者 当該情報を取り扱う業務
三 第三十九条第一項第四号又は第五号に定める情報の取扱いに従事する独立行政法人等の役員若しくは職員又はこれらの職にあった者 当該情報を取り扱う業務
四 行政機関等から前三号の情報の取扱いに関する業務の委託を受けた者その他の当該委託に係る業務に従事する者又は従事していた者 当該委託に係る業務
五 地方公共団体が第十六条の規定により基幹統計調査に関する事務の一部を行うこととされた場合において、基幹統計調査に係る調査票情報、事業所母集団データベースに記録されている情報及び第二十九条第一項の規定により他の行政機関から提供を受けた行政記録情報の取扱いに従事する当該地方公共団体の職員又は職員であった者 当該情報を取り扱う業務
六 前号に規定する地方公共団体から同号の情報の取扱いに関する業務の委託を受けた者その他の当該委託に係る業務に従事する者又は従事していた者 当該委託に係る業務
これは、職員に対し、情報を取り扱う業務により知った個人又は法人等の秘密を漏らすことを禁じることで、守秘義務を負わせています。
現在の職員のみならず、過去の職員に対しても適用されます。
守秘義務に反して情報を漏洩した場合の罰則は、2年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金です(統計法57条2号)。
未遂は処罰されません。
調査票情報の提供を受けた者の守秘義務等
統計法43条は情報の提供を受けた者の守秘義務を規定しています。
(調査票情報の提供を受けた者の守秘義務等)
第四十三条 次の各号に掲げる者は、当該各号に定める業務に関して知り得た個人又は法人その他の団体の秘密を漏らしてはならない。
一 前条第一項第一号に掲げる者であって、同号に定める調査票情報の取扱いに従事する者又は従事していた者 当該調査票情報を取り扱う業務
二 前条第一項第一号に掲げる者から同号に定める調査票情報の取扱いに関する業務の委託を受けた者その他の当該委託に係る業務に従事する者又は従事していた者 当該委託に係る業務
2 第三十三条第一項若しくは第三十三条の二第一項の規定により調査票情報の提供を受けた者若しくは第三十六条第一項の規定により匿名データの提供を受けた者又はこれらの者から当該調査票情報若しくは当該匿名データの取扱いに関する業務の委託を受けた者その他の当該委託に係る業務に従事する者若しくは従事していた者は、当該調査票情報又は当該匿名データをその提供を受けた目的以外の目的のために自ら利用し、又は提供してはならない。
守秘義務に反して情報を漏洩した場合の罰則は、2年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金です(統計法57条3号)。
未遂は処罰されません。
基幹統計の業務に従事する者の漏洩・盗用の禁止
統計法58条は、基幹統計の業務に従事する者の漏洩・盗用を禁止します。
守秘義務違反との違いは、個人又は法人の秘密を漏洩する場合と異なり、基幹統計自体を公表以前に漏洩・盗用した場合の罰則であるという点にあります。
第五十八条 基幹統計の業務に従事する者又は従事していた者が、当該基幹統計を第八条第二項の規定により定められた公表期日以前に、他に漏らし、又は盗用したときは、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。
罰則は1年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金です。
守秘義務を負う者の自己又は第三者図利目的での提供・盗用の禁止
統計法59条は、守秘義務を負っている者が秘密を漏洩するまでには至っていないが、自己又は第三者の不正な利益を図る目的で、情報を提供又は盗用した場合に、適用されます。
第五十九条 第四十一条各号に掲げる者が、その取り扱う同条各号に規定する情報を自己又は第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときは、一年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
2 第四十三条第一項各号に掲げる者が、その取扱い又は利用に係る調査票情報を自己又は第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用したときも前項と同様とする。
罰則は1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金です。
報告妨害・反真実な基幹統計の作成
統計法60条は、報告を妨害した場合及び真実に反する統計を作成した場合に、適用されます。
国勢調査に解答する個人に適用される規定ではありません。
第六十条 次の各号のいずれかに該当する者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第十三条に規定する基幹統計調査の報告を求められた個人又は法人その他の団体の報告を妨げた者
二 基幹統計の作成に従事する者で基幹統計をして真実に反するものたらしめる行為をした者
罰則は6月以下の拘禁刑か50万円以下の罰金です。
報告拒否・虚偽報告、資料提出拒否・虚偽資料報告、匿名データの自己又は第三者図利目的での提供・盗用の禁止
統計法61条は、報告等の拒否や、虚偽報告等を行った場合に、適用されます。
これは、国勢調査を回答する個人にも適用されます。回答したくない項目がある場合であっても、回答する必要があります。
第六十一条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第十三条の規定に違反して、基幹統計調査の報告を拒み、又は虚偽の報告をした個人又は法人その他の団体(法人その他の団体にあっては、その役職員又は構成員として当該行為をした者)
二 第十五条第一項の規定による資料の提出をせず、若しくは虚偽の資料を提出し、又は同項の規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、若しくは同項の規定による質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
三 第三十六条第一項の規定により匿名データの提供を受けた者又は当該匿名データの取扱いに関する業務の委託を受けた者その他の当該委託に係る業務に従事する者若しくは従事していた者で、当該匿名データを自己又は第三者の不正な利益を図る目的で提供し、又は盗用した者
罰則は50万円以下の罰金です。拘禁刑は規定されていません。
公表
統計法8条が、国勢調査により作成された基幹統計の公表を定めています。
(基幹統計の公表等)
第八条 行政機関の長は、基幹統計を作成したときは、速やかに、当該基幹統計及び基幹統計に関し政令で定める事項をインターネットの利用その他の適切な方法により公表しなければならない。
2 行政機関の長は、前項の規定による公表をしようとするときは、あらかじめ、当該基幹統計の公表期日及び公表方法を定め、インターネットの利用その他の適切な方法により公表するものとする。
3 行政機関の長は、国民が基幹統計に関する情報を常に容易に入手することができるよう、当該情報の長期的かつ体系的な保存その他の適切な措置を講ずるものとする。
おわりに
国勢調査は、わたしたちの暮らしを映す「統計の鏡」とも言える重要な制度です。適正な調査とデータ公表を通じて、政策立案や社会の把握が可能になります。
本記事では、沿革・法律根拠・回答方法から罰則までを紹介しましたが、制度運用の現場や課題は多岐にわたります。今後は、実際の調査票の読み解き方や最新のオンライン化・プライバシー保護の論点も取り上げていきたいと思います。ぜひ引き続きご覧ください。
  
  
  
  
